「しんがり」しんがりとは撤退戦の最後尾の隊のことですね。この小説は、山一證券の最期の始末として調査報告書を記した12人の実話をもとにしたお話し。1997年11月、四大証券の一角だった山一證券が自主廃業。ほとんどの社員が別の金融会社に再就職していく中、最後まで会社に残って真相究明と清算業務を続けた"しんがり"社員の奮闘。そのつけを負わされたこともしらず、社長就任を喜ぶ野澤氏の描写が切ない。しんがりたちの労力には頭が下がるが、あらためて破綻の原因をつくった経営幹部たちの無責任さにあきれかえる。
「オオカミの護符」著者は昭和38年生まれというから、私(昭和37年生まれ)と同世代。その著者が川崎市の実家で目にした「オイヌさま」の護符の正体を追って御嶽山をはじめとする関東の山岳信仰の世界に触れるレポート。狼信仰や都市近郊の農業とのつながり、高度経済成長の波の中で消えていく伝統といった変遷が良く分かる。何より、自分が育った同時期の横浜からそう遠くない川崎市宮前区に、小さな雑貨屋がひとつあるだけの村があって、農業と酪農を営み、行事や芸能を継承していたことに驚いた。
「旅猫レポート」猫のナナと、飼い主の青年サトルの旅を、ナナとサトルの旧友たちの視点で描いた小説。元野良猫のナナは、交通事故にあったところをサトルに助けられて一緒に暮らすようになるが、サトルはある事情でナナを手放さなければならなくなり、引き取り手を探すため旧友をたずね歩く。サトルは小さいころから賢く、強く、優しく、そんな彼だから旧友たちとの過去のエピソードは温かく、それぞれの生活ができてしまった現在との対比が際立つ。ナナとサトルの絆は深いけれどなんとなくサラッとしていて、そこが猫らしい所なのかも。我が家はだんぜん犬派だが、猫も飼ってみたいなと思った。
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